微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

続・交渉の主導権を握るのは、売り手か買い手か?

 

前回の記事では、表情識別力と交渉力との関係についてある研究を紹介しました。その研究によると、表情を識別する能力と交渉の売り手側のスキルとには正の相関が見られる、ということでした。この研究結果に対する疑問として、2つ挙がります。

 

疑問1:なぜ売り手側だけにこの関係が見られたのでしょうか?

 

本研究の考察によれば、本交渉ゲームにおいて、買い手側に比べ、売り手側の方が会話の主導権を握り、会話の流れをコントロールしやすい状況にいたのではないか、と推測されています。

 

現実の世界でも、商品に対する情報の有無、売り手・買い手の持つ情報の非対称度によって交渉上の有利不利が決まります。私は、よく違いがわからない商品を前にすると、取りあえず店員さんのオススメのものを買ってしまいます。店員さんの方が商品について情報を多く持っているので、店員さんの説明に乗ってしまいます。そんな状況に似ているのではないでしょうか。

 

したがいまして、本交渉ゲームで買い手側に有利な情報を与え、買い手側がコミュニケーションを図る上で有利な状況を設定すれば、逆の結論になるのかも知れないと推測出来ます※1。

 

疑問2:交渉をするプロセスにおいて表情識別力はどう利用されていたのでしょうか?

 

明確なことはわかっていない、というのが本研究の結論です。

 

表情識別力の高さ ⇒  ⇒ 売り手の獲得額

 

このブラックボックスで何が起こっているのかわからないのです。

売り手側が買い手側の表情を読み取った後、どう行動したか、どうコミュニケーションの流れを自分に有利なように変えたか、形成したのかがはっきりしていないのです。

 

気付いても行動に移すか否か、どう行動すればよいのか、という葛藤は誰もが経験したことがあるのではないかと思われます。

 

買い手の関心度を表情から読み取り、その後それを上手く活かせるか否かは、個々人のこれまでの会話、やり取りの経験値、もしくは何らかの交渉理論の有無によるのだと思います※2

 

いずれにせよ、本研究は、表情を正確に読みとるスキルが交渉の売り手側にとって優位になるということ実証的に示した重要な知見を私たちに教えてくれます。

 

「知識は行動の第一歩」と言いますが、

表情認識は交渉の第一歩」と言えそうです。

 

 

※1事実、感情の非対称性が売り手・買い手の交渉力のカギとなっていることを論証した論文もあります。しかしこの論文は感情認識能力を表情テストによって診断したのではなく、「売り手(買い手)が怒っている時~」「売り手(買い手)の機嫌が良い時~」というように言語で相手の感情状態を明示していました。この実験を言語ではなく、表情から読み取れなくてはいけないようにしたら疑問1で提案した仮説が検証出来ますね。

 

※2実は、弊社では感情理論を土台に、表情を読み取った後、どんなアプローチをすれば大外れしないか、という観点から「感情アプローチ」プログラムを作成しております。題して「微表情検知で○○に6割勝つ方法!」(○○に接客とか採用とかが入ります)笑。「9割」とか「絶対勝つ」とかいうハウツー系ほどインパクトはないですが、その代わり科学的方法論というものは誰でも出来るのです。魅力的ですよね?誰でも出来る、というところ!

 

清水建二

参考文献

Elfenbein, H. A., Foo, M. D., White, J. B., Tan, H. H, & Aik, V. C. (2007). Reading your counterpart: The benefit of emotion recognition accuracy for effectiveness in negotiation    Journal of Nonverbal Behavior, 31, 205-223.